TALK
作家対談
ともに1987年生まれである北村太一と山下永眞。
「すもミュ」の生みの親である二人に、見どころや製作秘話を語ってもらった。
相撲×ミュージカルをやることのメリットや発見
山下 今回「相撲だからこうでなければならない」という制約を切り離すことに苦労したね。今思うと、その不自由さが面白い作品を生むメリットになったのではないかと。
北村 僕がよかったと思うのはね、相撲甚句。これをエンターテインメントの中に入れ込めたというのはすごく価値のあることだと思ってる。相撲って国技のくせして、野球観戦とかと比べると実際観に行ったことのある人もすごい少ないよね、きっと。
山下 そうだね。
北村 日本人の中で「相撲」はスポーツなのか文化なのか分からない、ちょっとアンニュイな感じがするじゃない。相撲の歴史をみると、単純に勝ち負けだけを競うものではなくて「魅せる文化」でもある。それに気がついた時「あっ!これはエンターテインメントなんだ!」と繋がった。今回のミュージカルを観て、もちろん相撲はそんなもんじゃないといったご意見ご批判はあるんでしょうが、それさえも受け入れてくれるような度量の広さが相撲にはあると思うんだ。
山下 相撲もミュージカルもお客さんあってこそだからね。観衆を喜ばせるために、僕たちなりに頭を使って創ったものとして楽しんでほしいな。そして今回のミソは、相撲の説明書的なミュージカルではなくて、主人公リアスの人生に起こったほんの一部分だということ。
北村 そうだね、そこがチアリーディングでも吹奏楽でもなく相撲だったというところに妙がある。相撲じゃなかったら成せなかったであろう人間関係、コミュニティの形成の仕方とかがたくさんあるという面白さ。そこは稽古を観てても「ああ、相撲でよかったんだ。」と実感してる。身体を使うものは他に色々あるけど、俄然相撲だなと。
相撲への興味・知識
北村 ─相撲への興味と知識。知識は無かったですよ、相撲は皆無でした。むしろ田舎行ったときにおじちゃん、おばちゃんが相撲中継を観ていて、自分はとても暇だったくらい。力士の名前も分からないし。
山下 僕も祖父母と一緒に暮らしているもんで、小さい頃から夕方時のテレビは相撲。北村さんと同じようにあまり興味が無かった。ただ行司の人の声や独特の歓声なんかは物心ついた頃からずっと耳に沁みついている。こういったものって一朝一夕で勉強するものとは違って、自然と曲を書くときに役立つんですよね。
北村 そうだね、今からクリケットのミュージカルを創れ!と言われるのとはワケが違うよね(笑)。
山下 今回でいうと宮川さん演じるビリーが「新曲のサビを作れない…」というスランプに陥る横で、娘リアスがふざけて作曲する(?)シーンがあります。ところが、ビリーはそのメロディに着想して見事に曲を書き上げる。そのときリアスが歌ったフレーズが何かはここでは内緒にしておきますが、日本人だったら一度は聴いたことのある“あの旋律”。初めて稽古場に持って行ったときに、宮川さんに「面白い」といっていただけたことが嬉しかった。
北村 宮川さんといえば、今回のビリーJINKU(甚句)。作ってみてどうだった?
山下 甚句はね、テレビでやらないもんですから馴染みがほんとになくて、これはちょっと勉強した。民謡の楽譜の書き方から勉強したのはいいものの、あまりにも特殊なので宮川さんから怒られるのではないかとヒヤヒヤ。
相撲を題材に選んだ経緯
山下 日本人にしか出来ない題材で挑戦するというのが今回一つの課題ではあったよね。
北村 題材を選ぶ時にキーワードとなったのが日本、日本人、女性、エンターテーメント性、あとは家族を描くというのが絶対あって、少なくとも他のスポーツは出なかったね。で、僕らがほんとに未開の相撲というものを、まずは偏見だけで作ってみよう!……みたいなところから始まったのが発端だったのかな。きっと面白いだろうけど、他では絶対やってくれないもんね。で、形にしてみたら、今回想像以上に相撲をするじゃないですか。
山下 しこを踏む場面が何回も出てきます。
北村 やって良かったねあれは、女性が集団でしこを踏んでる姿があんなにも美しいものかっていう、雅だね。ほんとに!
山下 今の女性だからこそ、っていう肉体の躍動感が、すごくいい意味で表れている。
最後に
北村 今回女性を中心で、と考えたのはオリンピックで日本の女性の活躍が素晴らしかったこと。あとは、間違いなく今のミュージカル界で活躍している俳優さんの中で、女性たちがものすごくパワフルであるということ。最近はいい意味で色物の女優さんが増えてきて、いわゆる正統派だけではなくなってきたから。
山下 なるほど。この多様性ならいけるぞ、と。
北村 そう。30年前だったら日本人を題材にしかも女性で相撲、なんて発想は無かったと思うんだよね。ここまでいろんな可能性をみせてもらったから更に新たな可能性を、っていうことが考えられるようになった。
山下 そういう意味では我々も前衛的なんですかね。オリジナルミュージカルとしては稀なるもの、というか。
北村 そうなんでしょうね。逆に「ミュージカルといえば女相撲!」みたいな作品ばっかりだったら嫌だわ。
山下 そろそろお時間です。ここまで、お付き合いいただきありがとうございました。